第34章 【雛人形2015】
その日力が家に帰ると母と義妹の美沙が和室にいて、雛人形を飾っているところだった。
「あ、兄さん、おかえり。」
すっかり聞きなれた西のイントネーションで美沙が言う。
「ただいま。そうか、そろそろ雛祭りか。」
力は呟く。言動があれで周りからはらしくないと言われるが一応は女の子である美沙の為に母が引っ張り出してきたのだろう。シンプルだが可愛らしい立ち雛である。
「こんなのあったんだな。」
「これ私の。」
美沙が言う。
「ばあちゃんの形見持ってきてん。」
「ああ、なるほど。」
言いながら嫁入り道具、という言葉が力の頭をかすめた。もちろん自分の義妹に対する扱いをまるまる棚に上げている。力はしばし母と義妹が飾り付けをするところを眺めていたが、あれ、と呟いた。
「男雛と女雛の位置逆じゃない。」
「関西はこっち。」
それで事がわかった。亡くなった美沙の祖母は関西の出身で15年育てられた間に美沙はその言葉をそのまま引き継いだ。(と言っても関西の中でも別々の土地の言葉が混ざっているらしいが力にはよくわからない。)この男雛と女雛の立ち位置もまた祖母から引き継いだのだろう。
「ばあちゃんの顔立てたってってお願いしてん。」
ね、と美沙は母に言い母も頷く。母曰く美沙が祖母から引き継いだのなら今のうちくらいは好きにさせてやりたいそうだ。それはそれで納得した。が、
「まぁ私が嫁に行ったら話は別やろけど。」
「まだ早いだろ。」
「冗談やて、兄さん。」
力はついムッとした顔で美沙を見つめてしまい、直後にしまったと思った。