第3章 初日終了
数秒間互いに沈黙になる。本当に沈黙が好きらしいねお互い。
そんな空間が終わったのは加州清光の一言だった。
「アンタは俺の事、捨てない?」
鶏肉をひっくり反そうとする手を止めた。
酷くか細い声。数時間前までウチに対して荒い声を発していたそれとはまったく違う。
「捨てる…って…。」
突然何、言い出すの?鶏肉を焼いたまま、加州清光の方へ体を向ける。
彼は顔を伏せていて、表情が読めない。
あまりに唐突過ぎる疑問に即答なんて出来るはずが無くて、何も言えずにいた。
「……何でもない……。」
さっきと同じ位のか細さで紡がれる言葉。そのまま、何処かへ行こうとする。
答えが返ってこなかったから、痺れを切らしたらしい。
そりゃ、そうでしょ?誰だって突然の質問に答えられるのなんて、学校の問題位だよ?
でも、何でそんな事が聞きたいのか、疑問には思った。だからか、無意識のうちに加州清光の手首を掴んでいた。
「あ、えっと…。」
背を向けた彼の顔がウチを見下ろす。無意識だったから、自分からそんな大胆な行動に出ていたと気付いた時には、顔に熱が集まっている様に思えた。
何処かへ行こうとしていた足が止まったから、彼の手首からウチの小さな手を離した。
「そうだ!肉!肉焼きっぱなしだった!!」
わざとらしく声を大きくして、肉を焼いているフライパンの元に戻る。
何したいんだよ…ウチ…。熱くなっている顔を腕で拭いつつ、肉を裏返ししていく。…若干、黒くなってる。
「…手伝うよ。」
右側から加州清光が顔を出し、手伝いの申し出をしてくれた。特に、さっきの事については何も言わない。
そこから、無言で準備をしていくだけだった。
★★★
「黒い…。」
「済みません…。」
出来るだけ、黒さが最小限な物を加州清光の方へ置いたが、それでも肉は焦げてる。
彼が言ってから変な空気しか、ここにはない。凄く、気まずいです。
前に居る加州清光の顔が見れなくて、顔を下げる。そして、互いにご飯に手を付けない。いや、付けるタイミングが見つからない。
「頂きます。」
居た堪れない空気の中、静かな声が部屋に響き、ウチの耳にも入った。さっきも聞いた加州清光の声だった。
声につられて、顔を上げる。礼儀正しく、両手を合わせて食事前のあいさつを口にしていた。