第41章 暗鬼による確信による、
その声は、この場にいる誰よりも冷静で、誰よりも優しい声は。
「落ち着いてください。らしくないですよ」
紛れもなく、菊だった。
耳に入ってきただけで泣きそうになる声が、私を庇うように前に立った。
その目は真っ直ぐアルフレッドを見つめていて、銃を向けられていることなど、気にも留めていないようで。
背筋を伸ばして立っていた。
「き、菊……!」
「大丈夫ですアーサーさん」
「あんなあいつ久しぶりに見た……マジで撃ちかねねぇぞ!」
アルフレッドに歩み寄ろうとする菊を、アーサーが引き留める。
アーサーの言う通り、アルフレッドの瞳は濁りきっていた。
錯乱している、とはっきりわかるほどに。
銃口も、見開いた瞳も、赤いマシューを必死に抱える腕も、全てが一触即発だ。
匂い立つような殺気を立ち上らせ、純度の高い憎悪で、アルフレッドはその水色の瞳を汚していた。
明瞭な殺意に、私は怖くて一歩も動けない。
風が髪一本を揺らすのさえ、恐ろしく感じるほどに。
「菊、さん……」
懇願する。
けれど菊は、全てを理解した上で私に微笑みかけ、アルフレッドに歩み寄ろうとする。
そのとき、確信めいた予感が脳裏を駆けた。
予感というより、それは既視感であり、焦燥感であり――
なにか取り返しのつかないことが起きようとしているのに、それをただ見ているだけしかできないような――
次の瞬間、
「……っ!」
銃声と、誰かの噛み殺した呻き声が上がった。