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【ヘタリア】周波数0325【APH】

第40章 疑心または月夜にて


挨拶のあとすぐ、アルは上司らしき人に呼ばれてどこかへ行った。

会議はまだ始められる状態ではないようだ。

会議場に到着していた面々とひとしきり再会を喜び合い、私は一息ついた。

前回より集まりが悪い気がする。

それどころか、ヨンス、香くんなどはあれから見ていない。

嫌な考えが浮かんで、とっさに頭を振った。

大丈夫、そのために私は――

「なにかあったのですか?」

「はいっ!?」

突然話しかけられ、肩が跳ねる。

声の主を見れば、菊が心配そうな表情でこちらを見ていた。

「驚かせてしまって申し訳ありません、なんだお元気でなさそうに見えたので……」

「えっ? あ、そっそんなことないです! いつも通りです!」

慌てて否定すると、菊の瞳が急に真剣さを帯びた。

黒い瞳孔が収縮して、見透かすようにじっと見つめてくる。

確信めいた低い声で、ゆっくりと囁かれた。

「“戻られた”とき、なにかあったんですね?」

「っ!」

私以外に聞こえない音量のそれは、小さくても耳の奥まで突き刺さった。

嘘も誤魔化しも許さないという視線から、精一杯の力で目を逸らす。

それきり口を閉じた菊は、沈黙で私の答えを促していた。

「……言えません、今は」

「今は?」

「今言っても、なにも確証がないのに、菊さんたちを困らせるだけで、私がいやなんです」

「……」

もし、今“時間が巻戻っていたこと”を言ったら、菊たちはきっと「もうこちらに来るな」と言うだろう。

私のことを思って、拒絶するだろう。

そうだとして、私はベッドで終わりの見えない眠りにつくロヴィーノを放っておいて、当たり前のふつうの生活に戻れるのだろうか?

それができないとして、またトリップしたとして、彼らはどう思うだろうか――
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