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【ヘタリア】周波数0325【APH】

第40章 疑心または月夜にて


それは今までで、一番平和で、一番つまらないトリップだった。

「ん……」

軽い眩暈を感じながら、目をひらく。

トリップ直後の体調の急変は、最初のころと比べるとはるかにマシになった。

それが素直に喜べない理由を、あまり考えたくはない。

体勢を直して顔をあげると、煤けて崩れ、鉄骨が突き出ている壁が目に入った。

それどころか、あたりを見回すと、まるで爆破されたかのように丸々派手に壊れている場所もある。

私は、中庭の見える廊下に立っていた。

どうやらここは、なにかの施設の中らしい。

思い出したように、焼けた匂いが鼻をつく。

ぼろぼろの壁も、元は清潔な白い壁だったようだ。

病室のような、無傷で白い壁を保持している場所も見える。

「ここ……どこ……?」

答える声のかわりに、せわしない足音が聞こえてきた。

あちらこちらに行きながらも、どんどん複数の足音は近づいてくる。

どうしよう、不法侵入とか言われたら――

そんな不安が湧きだしてくると同時に、中庭をはさんで反対側の廊下から、背広の屈強な男たちが現れた。

しかも彼らは、私を発見するなり目の色を変え、かっちりしたスーツを着ているとは思えないフォームで突進してくる。

逃げようという気持ちが一瞬で霧散した。

私は棒立ちで、彼らの到着を迎えた。

「主人公子さんですね?」

「ハ、ハイ」

「シークレットサービスの者です。アルフレッド様の命により、お迎えに上がりました」

「ハ、ハイ…………え?」

太陽の光を反射して、バッジがきらりと光った。

バッジの中で、翼を広げ、睨みをきかせるハクトウワシに、私は言われるがまま黒塗りの車に乗り込んだ。
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