• テキストサイズ

【ヘタリア】周波数0325【APH】

第39章 錯綜と進む針と


それは、公子の到着を知らせる連絡だった。

「お、公子ちゃん来たんだ」

うしろからフランシスが画面を覗きこんでくる。

が、予想に反して、すぐさま会議場に戻ろうとしなかった。

「だって全員が大挙して押し寄せたらコワイでしょ」

当然のようにそう言って、再び服選びに戻った。

さっきよりうきうき加減が増しているように見えるのは、アーサーの気のせいではないだろう。





「――シューが……」

もれた声は、店内のBGMにすらかき消されそうなくらい、かすかだった。

自分の口が、言葉を続けるのをためらっていた。

「あーこれなんか坊ちゃんにもあうんじゃない」

フランシスがドヤ顔で振り向いたのと、自分の声帯が震えたのは同時だった。

「マシューがいなくなった」

ぴたり、と、フランシスが固まる。

服を持ち、振り返った体勢そのままに、アーサーを凝視する。

彼の口が、きつく結ばれた。

すべてを一瞬で押し殺し、それを全身で受け耐えているかのように、その場に立ち尽くしている。

やがて、唇が緩慢に言葉を紡ぎだした。

「なにがあったの」

「アルが言わないなら、俺が全員に話す。だから――」

戻るぞ。

そう言う前に、フランシスは踵を返していた。

険しくもなにかを決意したような横顔が、アーサーには見えた。

足早に先を行く背中を追いながら、その背中に毒突きたくなる。

「……息抜きが必要なのは、てめぇもだろうが」

吐き捨てた言葉が、フランシスに届くことはなかった。
/ 465ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp