第39章 錯綜と進む針と
それは、公子の到着を知らせる連絡だった。
「お、公子ちゃん来たんだ」
うしろからフランシスが画面を覗きこんでくる。
が、予想に反して、すぐさま会議場に戻ろうとしなかった。
「だって全員が大挙して押し寄せたらコワイでしょ」
当然のようにそう言って、再び服選びに戻った。
さっきよりうきうき加減が増しているように見えるのは、アーサーの気のせいではないだろう。
「――シューが……」
もれた声は、店内のBGMにすらかき消されそうなくらい、かすかだった。
自分の口が、言葉を続けるのをためらっていた。
「あーこれなんか坊ちゃんにもあうんじゃない」
フランシスがドヤ顔で振り向いたのと、自分の声帯が震えたのは同時だった。
「マシューがいなくなった」
ぴたり、と、フランシスが固まる。
服を持ち、振り返った体勢そのままに、アーサーを凝視する。
彼の口が、きつく結ばれた。
すべてを一瞬で押し殺し、それを全身で受け耐えているかのように、その場に立ち尽くしている。
やがて、唇が緩慢に言葉を紡ぎだした。
「なにがあったの」
「アルが言わないなら、俺が全員に話す。だから――」
戻るぞ。
そう言う前に、フランシスは踵を返していた。
険しくもなにかを決意したような横顔が、アーサーには見えた。
足早に先を行く背中を追いながら、その背中に毒突きたくなる。
「……息抜きが必要なのは、てめぇもだろうが」
吐き捨てた言葉が、フランシスに届くことはなかった。