第38章 ゼロ地点の結界より
たしかに、彼の言うとおりだ。
『知り過ぎだよ』――声はそう言っていた。
ならなぜ、“これ一台でスパコン性能”なんていう“知る手段”がここにある?
「しかもこんな街で、衣食住完璧に用意しておくなんて、俺たち二人だけにそんな手間かけてる余裕……イヴァンにあるのか疑問なんだぜ」
エアコンも風呂も、快適な生活が送れるよう完備されている。
とくに拘束されてもいなかった。
そういえば、他の家はどうなっているのだろうか?
自分たちの家だけ環境が整っているとしたら、気味が悪いどころの話ではない。
何者かの意図が、確実に存在していることになる。
「なんか……『ここでなら好き放題調べていい』って言われてる系?」
「むしろ、『これだけ準備したんだから、さっさとここで調べ終えろ!』って言われてる系なんだぜ!」
ヨンスが謎の笑顔を満面に浮かべ、元気にこたえる。
……なんだ、それは。
“これ一台でスパコンPC”に、この街。
なにを意図してなされたものなのか、全然検討がつかない。
しかし少なくともイヴァンだとか、そんな一国のものではなくて、
「じゃあ俺たちをここに連れてきたのって」
「異変の黒幕……いや、異変そのものとか?」
「マジ余計にタチ悪い!」
あっはっは、とヨンスの笑い声が返ってきた。
大丈夫かこいつ、と思っていると、ヨンスの瞳に煌々たる確信が宿っていることに気づいた。
「どんな黒幕だろうが、感謝してるんだぜ」
「?」
ヨンスが、ゆっくりとPCのディスプレイに手を添える。
「こいつなら、絶対に解析できる」
唇の端が、挑戦的に吊りあがった。
確固とした自信を秘めた、力強い笑みだった。
そんな彼に、いい意味で香は脱力する。
「OK OK、俺もできること頑張る的な」
しばらく香は、本を読むことに集中することにした。