第25章 雨の中へ
「名付けて、水と鍵理論だ」
ギルが言うとなんだか中二病に聞こえるが、そんな茶々を入れられる雰囲気ではなかった。
「俺らの世界は、もともとはお前の世界と同じ情報を持っていた。この情報を、コップの中にある水だと考える。コップは、科学分野だったり、歴史分野だったり、まあたくさんある」
シュレーディンガーの猫を扱う量子力学とか、フォートが切り開いた超常現象学(?)がコップってことらしい。
「“異変”によって、コップの水が減る。つまり、情報が減る」
「ネゲントロピーとか、フォートさんという情報がなくなると」
「そうだ。で、別の世界からやってきた公子という情報が、このコップに水として注がれる。コップがいっぱいになったら、水はどうなる?」
「こぼれます」
「そう、それが“戻される”ってことだ。つまり、俺らの世界から、自分の世界に帰る」
「なるほど」
けっこう納得だ。
トリップを繰り返すことの説明になっているような気がする。
「もう一つは、鍵だ。
俺らの世界と公子の世界は、元々同じ情報を持っていない。ただ、持っている情報の種類が違うが、総量はだいたい同じ。技術のレベルもだいたい同じとしよう」
頷く。まず、ヘタリアっていう作品がこの世界にはないもんね。
「こっちはシンプルだ。“異変”によってうまれた錠前を、公子が鍵となって解錠する」
「わかりやすいですね」
「だろ? でもな、普通、錠前と鍵はセットで作られるもんなんだよ」