第20章 追跡先へ
「してやられてもうたなー」
困ったように頭に手を当てて、アントーニョは苦笑いした。
焦りの全くないその声が、無人の廊下に響く。
隣を歩くフランシスは思案顔で、顎に手を添えてつられたように笑んだ。
「そうだねえ。まあ菊が一緒だろうからそこまで心配じゃないけど」
「あんのクソ眉毛、停電に乗じるなんて相変わらず汚いマネやなぁ。腹立つわぁ」
朗らかな笑顔に恐ろしい影を感じて、フランシスはなだめながら目的の部屋をノックする。
すぐに扉が開き、ギルが顔を出した。
「おせぇよ」
不満そうな声と表情が出迎える。
「ごめんごめん。でも抜け出してくるの大変だったのよ~!」
言いつつ二人が部屋に入ると、窓もなく狭い小部屋が待ちうけていた。
以前は書庫だったのか、壊れそうな骨組みの空っぽな本棚が天井近くまで伸びている。
他にあるものといえば机、折りたたみ式のいす、一台のパソコンくらいだ。
ギルが「この部屋もうすぐ取り壊されんだよ」と言っていたが、なるほどとフランシスは納得する。
と、アントーニョの目がパソコンに釘付けになった。
記号的な青色の背景に白文字、そんなウィンドウが壊れたように現れては消えていっている。
「ギルちゃんこれなにしてんの?」
「うわっ、さわんじゃねぇぞ!」
慌ててパソコンに駆け寄るギル。
少し残念そうに口をとがらせながら、アントーニョは腰掛けたギルの背後から画面を覗きこんだ。
タイピングをしていてもしていなくても、ウィンドウは途絶えることなく出現と消失をくりかえしている。
さっぱりわからず、アントーニョは首をひねった。
そんな面持ちの彼を見てギルはニヨニヨ笑いながら、さも得意げに口をひらいた。