第11章 守る意味を求めて
「櫻子……お前、もしかして自分がどうして怪我をしたのか覚えてねぇのか?」
「……あ、はい。確か……悟心鬼という鬼と、対峙して……それで羅刹桜牙を」
「悟心鬼だと!? お前、悟心鬼にやられたのか!?」
「え? あ、いえ……たぶんそれはないと思います。羅刹桜牙を手にして、それから……悟心鬼にやられると、そう思った時ぶわっと自分の中にある血が逆流していくような沸き立つ何かを感じたんです」
「……どういうことでい」
「はい。まるで、大きな力が私を呑み込んでいくような……支配されるような、そういう感覚にとてもよく似ていました」
櫻子は少しずつ、記憶を手元へと手繰り寄せる。あの時の自分、その沸き立つ思いに呑み込まれる最中刀身が紅色に染まっていく様を見たのを思い出す。
――あれが、羅刹桜牙の真の姿なのでしょうか?
今まで見たことのない、美しい刀身だった。
櫻子は誰かの声が頭の中に響いたような気がしていた。それはとても懐かしくて、けれど恐ろしくも思えて。自分の中に元々あったものが、刀の鼓動に合せて目を醒ましたような。
「あの時私は、刀の鼓動を感じて……それに自然と息を合わせたように思います。そうしていく内に、私は暗闇へと沈んでいくのを感じた気がします。けれど全てが失われたわけではありませんでした。断片的にではありますが、意識のないはずの私が刀を振るい悟心鬼を倒したのを見ました」
「お前が……悟心鬼を?」
「信じられない、とでも言いたげですね」
櫻子は苦笑いを浮かべた。