第19章 horizon.(片倉小十郎)
それから、数日後。
「小十郎っ!今日はの笛を聴いてくださいませ!」
「畏まりました、こちらの用が済みましたらお部屋にお伺い致します」
「…………」
「うん!待っているわ!」
「では、後程に」
「………………………おい、小十郎」
二人のどこか甘ったるい会話に痺れを切らせた政宗が静かに口を開いた。
は既に嬉しそうに笑って自室へと戻っていってしまった。
普段なら兄である政宗に声を掛ける筈なのにどういう事だろう。
「如何なさいましたか、政宗様」
「何故はわしを誘わぬのじゃ…しかも何故お主を!!何故じゃ!!」
信じられないと言った様子で小十郎に詰め寄る政宗。
そんな取り乱す主に小十郎は諭すように告げた。
「恐れながら政宗様、これは『兄離れ』と言うものでございます」
「あ、兄離れじゃと!?」
「様も視野が広がりとても良い事にございますね」
「…認めんっ!わしは認めんぞ!!ーっ!」
そう叫ぶと政宗はの後を追って走っていった。
その場に一人残った小十郎は眼鏡を掛け直して手元の書簡に目を移す。
「さて、仕事を済ませてしまいましょう」
そしてこれが終われば姫君の元へ。
今頃慌てた政宗と話している頃だろうか。
そう考えると自然と口元が緩んでしまう小十郎であった。
「お兄様、気が散って笛がうまく吹けませぬ!」
「何故じゃ!!何故兄から離れる!」
「だってこの世に男子はお兄様だけではないのです♪」
「!!!??」
翌日、政宗が熱を出したとか出さなかったとか…。
END