第12章 鮮明
「ほら、どうして首を縦に振らないの? ほら、どうして? どうしてだい!? アンタが縦に振りされすれば、面倒を見てやっている私が当主になれるんだよっ!!」
「……叔母様? な、何を言っているのですか……?」
「っ……、それはこっちの台詞だよっ!!」
「いたっ!」
思い切り頬をぶたれた。どうして? 私、何か悪いことをしたの?
「ただでさえ、アンタの容姿は気持ち悪いんだよっ!! 全権をこの手にする為に引き取ったに過ぎないのに、口答えするんじゃないよ!!」
いくら叔母様に泣いて、謝って、何がどう悪いのか問いかけても、当主を明け渡せとしか言わない。その日を境に、屋敷の中は変わり果てていった。
誰もが当主の座を狙い、私に媚を売り時には暴力を振い、他の者達と争っていた。屋敷に響くのは楽しい声ではなく、醜い叫び声ばかり。
もう聞き飽きた、もう嫌だ。もう……嫌。
私が消えれば、全ては丸く収まるのか? 幼い私の心に芽生えた自殺願望。死んでしまえば、両親達と同じ安らかな場所へ行けるのだろうか?
ここじゃないところなら、どこでもいい。
そんな思いから、計六回の飛び降り自殺未遂を果たした頃。私は……六回目にして、漆黒の男と混濁した意識の中で出会う。
「楽しいですか? 死のうとすることは」
「……楽しいと思う?」
「いいえ。くだらないと思います」
「あっそ……貴方誰?」
「私ですか? 私は……ふふっ、なんだと思いますか?」
「……闇?」
「近いですね」
男の瞳は、怪しく真紅に染められていた。私と同じ、赤い瞳。