第10章 花束
「クライヴ、船内に残っている乗客達の様子を見てきなさい!!」
「姫様!? しかし……っ」
「きっと、上は未だパニックの渦。今それをなんとか出来るのは、私とファントムハイヴ家のみ。行きなさいっ!!」
「セバスチャン、お前も行くんだ!! 早く何とかしてこの浸水を止めてこい!!」
二人の執事は、顔を見合わせた。
「「イエス・マイロード」」
同時に、シエルはアリスの手をぎゅっと握った。
「シエル……?」
「僕が必ず、執事の代わりに君を守るっ!! だから……一緒に行こう」
「……ええ」
水の重みが、ドレスに沁み込みだんだんアリスの足を鈍らせていく。
「アリス、服を軽くするんだ。脱げるところまで脱げ」
「か、勝手なこと言わないでよ!!」
シエルは自らの上着を脱いで、もう一度彼女に強く言う。
「服を脱ぐんだ、アリス」
「……っ、変態!!」
言葉とは裏腹に、彼女は脱げるだけ服を捨てると薄着になり、身を震わせた。すかさずシエルが、脱いでいた自分の上着を彼女へかける。
「……強く言ってすまない」
「……いいわ、別に」
繋いだ手を離さぬように、しっかりと繋がった二つの手は出口を求めてリアン達と足元が悪い中急ぐ。
「君達、急いで!! もう少しだ!」
光が見える。差し込んだ光に向かって、全速力で飛び込んだ。