第24章 亀裂
シエルの屋敷にアリスが住み始めて、暫くが経った頃……シエルの屋敷に久しぶりにエリザベスが遊びに来ていた。
「シエル! 今日は何して遊ぶ?」
「アリスにでも遊んでもらえ……僕は忙しい」
シエルは相変わらず、机に向かって書類を片付けていた。その傍らには、当然だがセバスチャンが控えて仕事を手伝っている。
「ねぇ、セバスチャンからもシエルに言ってよ!」
「申し訳ございません。前もって、言って下されば坊ちゃんも予定を空けることが出来たのですが。忙しい身ですから」
「むっ……婚約者なのに、前もって言わないと遊べないなんて嫌よ!!」
「駄々をこねるな。僕だって、好きで忙しいわけじゃない」
「良ければ、アリス様のところまでお送りしましょうか?」
「……私、最近視線を感じるの」
「視線?」
エリザベスのいつもと違う異様な雰囲気に、シエルは流石にペンを止めた。彼女の憂いを帯びた表情は、何処か不安げで一瞬手が震えているようにも見える。
強がって、明るく振る舞っていたというのだろうか?
「何があった。話せ、エリザベス」
「数週間程前の話よ。近頃、英国で貴族の娘を狙った殺人事件が起きているの。それを知って……お父様が、気をつけなさいって言った二日程前。急に妙な……視線を感じるようになったの」
「それはどんなものかわかるか?」
エリザベスは、自らの両手に胸の前でぎゅっと握りしめた。