第20章 牢獄
「随分昔に流行ったドラッグらしいんだけどね、その時はあの……例のヴァインツ家の当主さんが壊滅させてくれたはずなんだけど。首謀者は捕まえられなかった。それが、今回再び萬栄し始めた原因かもね」
「ということは、アリス様の元にもこの手紙は……」
「必ず、彼女の元にも届く。それはそうだろう、過去の尻拭いを陛下はご希望だ」
「しかし、では何故我々にも?」
「わかるだろう?」
三日月のように口元を歪ませ、グレイはセバスチャンを見た。何かを知っているような空気を思わせるけれど、それを今考えたところできっと何もわからないのだろう。
"エンジェルドラッグ"
それは、セバスチャンにとってよく知るものの一つ。それもそのはず、過去アリスの執事であった時に彼自身が首謀者と思われるラビットファミリーを壊滅させた張本人なのだから。
――残党でも残っていたというのでしょうか。
「まぁ、とりあえず伯爵に宜しく伝えておいてね」
「わかりました」
グレイは再び窓に足をかけると、一瞬動きを止めセバスチャンを一瞥した。
「ねぇ、次は守り切れる?」
彼の姿は、その言葉を置いてすぐに消えた。完成途中のケーキを眺めながら、セバスチャンはぎゅっと皺が出来るほどに手紙を握り締めた。
完成したケーキと紅茶と共に、セバスチャンは手紙をシエルに渡すべく彼の自室へと訪れていた。