第18章 宇宙的浮遊感(岩泉一)
宝物を見つけた子供みたいな表情のなまえに、ぷっ、と及川が吹き出した。
「わかったわかった。俺たちみんな、バレー馬鹿ばっかりって言いたいんでしょ」
さほど物分かりのよくない俺は首をかしげた。
没頭感か、と考えた。
難しいことはわかんねーけど、バレーボールのコートの中では、確かに、何もかもが無に近くなる時がある。
目が眩む程の、体育館の眩しいライトも、五月蝿いほどの応援席の声援も、試合中は不思議なほどに気にならない。まるで、自分の立っているコートだけが、世界から切り離されたみたいな感覚になる。
トスがくる、と直感的に思って跳ぶと、その通りに目の前にボールが上がるから腕を振り下ろす。頭で考えるより先に、勝手に身体は動いていく。
切り離された世界の中で、宙に浮かぶボールを追いかけて、繋いで、繋いで、その円軌道の先を求めて頭上を見上げているうちに、自分は何者で、今、どうしてこの場にいるのかということすら、いつのまにかわからなくなっていく。そこにあるのは、チームと、ボールと、俺だけで、他のことは全部忘れる。自らが人間であることさえも忘れてしまいそうなほどに。
つまり、なまえは、あのなんとも言えねー感覚が、幸福感だって言ってるのか?
「なんだよ、なまえ。それ言うためにわざわざ部室まで来たのか?」
「そうだよ!」
「変なやつ」
つい笑ってしまった。だって、なんか、ちょっとかっこいーじゃねーか。悔しいけど。
「ね、だからね、今度の大会こそ、絶対白鳥沢に勝とうね!そんで、皆で全国しゅ———」
ずる、となまえの身体が傾いた。あ、とその場にいた全員が呟いた。
なまえが、長い髪の毛を綺麗になびかせて机から落ちた。足を滑らせたのだ。
「おいおい、」
鈍い音をたてて落下したなまえに慌てて駆け寄る。「だからあぶねーっつっただろ。だいじょ」
「ぎゃー!パンツ見るな変態!」
「———ぶ、みたいだな。心配して損した」
尻餅をついてもなお短いスカートを必死で引っ張るなまえに呆れてしまう。なるほどな。スカートはこういう時に使うのな。
「見えてねーから心配すんな。怪我ないか?」
「んん、」
「足は?立ってみろ」
むすっとした顔のなまえの腕を掴んで立たせる。