第15章 庶民の暮らしは198(いちきゅっぱ)
沖田「ったく土方さんもガキですねィ。そんなムキになってまぁ…」
土方「なんだ。食いついてこないのか?」
目を丸くした土方さんを総悟が鼻で笑う。
沖田「俺ァさくらが答えを出すまで待てるくれェの器は持ってるんでね。それとも何ですかィ?土方さんはそんな余裕も無ェくらい自信がないと?」
土方「…あくまで譲らねぇ、そういうこったな。上等じゃねェか」
いつもならこの現状に冷静に終止符を打つであろう土方さんは、総悟の売りつけた喧嘩を高値で買い取った。
沖田「そーいう事でさァ。そいじゃあ土方さん、仕事に戻るとしますかィ」
土方「ああ。そうだな」
男ふたりは勝手に自分達で自己解決をすると、颯爽と背を向けて去っていく。
いやいや。待って待って。
終始おいてけぼりの私を助けてください。
『え、あの…』
沖田「てなわけでさくら。悪いが買い物は付き合えねェや」
土方「そういうこった。こいつァ連れて帰るぜ」
土方さんが道の先を親指で指さす。
どういう訳でこういう事になるんだろう。
『いやあの…どういう事ですか?』
土方「どうもこうも…俺達は互いに仲良く譲り合うつもりなんざ毛程も無ェってことだよ」
そう言いながら土方さんと総悟はパトカーに乗り込んだ。
沖田「俺ァ土方さんなんかに譲る気は犬の餌の皿に残ったマヨ程も無ェが…さくらが答えを出せねぇでいるってんならいくらでも待ちますぜ?」
土方「犬の餌って何だ。まさかと思うが土方スペシャルのこt…」
沖田「だが…」
助手席に座った総悟が土方さんを押しのけ、運転席側の窓へ身を乗り出してニヤリと笑う。
沖田「生憎俺は気の長い方じゃ無ェんでね。あんまりモタモタしてると…勝手にもらいに行くんで気をつけた方が身のためですぜ」
『は!?え、そんな…っ』
助けを求めて土方さんへと視線を移す。
土方「…」
私の視線に気づいたであろう土方さんは、煙草の煙を1つ吹かすと
土方「…そういうこった」
『え』
ウィーン…ブロロロ…
返答を待たずに言うだけ言って窓を閉め、今度はパトカーのエンジンを吹かして走り去っていった。
『…』
人で賑わうかぶき町に1人、取り残された私。
…
『…結局卵は1パックか』
重たい足を引きずりながら大江戸スーパーへの道を急いだ。