第20章 story19“決意の先に待っているもの”
「私は…幸村が好きです」
「………お前は強いな」
自分と向き合わず、うやむやにする事も出来た筈なのに。
逃げずに此処に来てくれた。
涙を流す彩芽を抱き締めたい、だがそれはもう叶わない事なのだ。
「その涙で…十分だ」
抱き締められなくても、想いが叶わなくても、今真っ直ぐに自分を見つめ彩芽は泣いている。
自分の事を思い、悩み、考えて自分の為に泣いてくれている事実がある。
清正はそれで十分だと感じていた。
「好きになってくれて…ありがとう清正」
泣きながら笑う彩芽の顔はとても綺麗だった。
彩芽が立ち去った後の鍛練場で一人柱にもたれて清正は座り込む。
「………」
本当はこの手で幸せにしてやりたかった。
本当は隣でずっと笑っていて欲しかった。
十分だと彩芽に告げた筈なのに。
胸がチクりと痛む。
こんな痛みは今まで味わった事がない。
「……俺は器が小せぇな」
ポツリと呟いた清正の言葉は鍛練場に静かに響いて消えていった。
大きく息をついた後、清正は立ち上がりまた槍を構える。
「…これからアイツの為に出来ることはこの家を守る事だ」
彩芽が好きだと言ったこの地を、この家を死ぬ気で守る。
迷いのない太刀筋は大きく風を切り、ピタリと止まったのだった。