第2章 story2“気付いた想いの名は”
信之には徳川の重臣である本多忠勝の娘、稲姫との婚儀の話があがっているのを彩芽も聞いた事があった。
ただ、幸村の婚儀の話は一度も耳にした事がなかった。
「婚儀…ですか……?」
「彩芽に頼みがある、単刀直入に言う…近い内に此処を、上田を出て欲しい」
「!!」
話の流れから、昌幸の言わんとしていることは何となく予想が出来た。
彩芽の顔からは笑顔が消えていた。
「昌幸様の仰る事は、正しいです…婚儀を終えていない男女がいつまでも馴れ合っているのはおかしいですもの…」
「彩芽……」
精一杯の笑顔を昌幸に向けた。
「彩芽の奉公先の手筈は済んでおる…歓迎の意を込めて、相手方の重臣が直々に迎えに来ると聞いている」
「…昌幸様、今まで本当にお世話になりました、私は2年前のあの日に真田に拾われた事…本当に感謝しております……」
畳に手をついて、彩芽は深々と頭を下げた。
「迎えは五日後だ」
「はい」
困らせるなんて出来ない。
自分にとって辛いことだったとしても、
真田の人達に迷惑を掛けるくらいなら辛い方がずっといい。
顔を上げ、彩芽は立ち上がる。
「昌幸様、私…部屋に戻りますね」
「あぁ…遅くなってしまいすまなかったね」
「…お休みなさい」
襖を閉める際、彩芽はもう一度頭を下げる。
昌幸は閉まった襖をいつまでも眺めていた。この二年、昌幸も彩芽の事はとても可愛がっていた。
だからこそ、幸村の彩芽を見る目が日が経つにつれて変わって来ていた事も昌幸は知っていた。