第45章 11.17 HAPPY BIRTHDAY!!(黒尾鉄朗)
「ぶははは!なんだよ、その格好!!」
教室の前方のドアをくぐった瞬間、クラスの男子の笑い声が飛んできた。そいつから伸びる人差し指は俺に向けられてはいない。一緒に入ってきた、黒尾鉄朗に向けられていた。
俺はすでにひとしきり笑った後だったのだけれど、どっと沸き起こった爆笑の渦につられて「ぶふっ!」と右手で口を覆って噴き出した。
でもこれはしょうがないよな。ゼッタイ笑っちゃうから。
「どうも、本日ジュウハッサイになりました。黒尾鉄朗でぇす」
バースデーケーキを模した伊達メガネを顔にかけて、うぇーい、と口の端を釣り上げている黒尾。その両腕には俺たち男子バレー部一同からのサプライズプレゼントが溢れんばかりに抱えられていて、さらにその下には”本日の主役”と文字の入ったタスキまでかけている。月曜の朝からなんてハッピーでフザケた格好なのだろうか。
「なんだよ鉄朗、今日誕生日なのか!?」
「まーな!さっきそこで、部員の皆に祝ってもらったんだ!」
教卓の真ん前にある自分の机にどさりとプレゼントの山を乗せた黒尾は、あっという間に周りを男子たちに囲まれてしまった。四方八方から小突かれまくって、近年稀に見る嬉しそうな顔を見せている。ここまで喜んでくれたなら、こっちも祝ったかいがあったってもんだ、と俺は1人で達成感に包まれていた。
にしても、こんなに盛り上がるとは思わなかった。
黒板の前に立ったまま、教室全体を見回した。黒尾の傍には来ないにしても、静かなタイプの生徒までくすくすと笑いを漏らしている。少し心配になって、教室の一番後ろに目を向けた。空席の自分の席と、その隣に座って俯くなまえを見つめる。
「ーーーというわけで女子生徒諸君。俺になんかくれ。駄菓子でいいから」
調子に乗ったアイツは気付いていないんだろうな。浅ましいわ!と笑いながらグミやチョコレートの小袋を恵んでいく女子勢に紛れて、俺は静かに自分の席に向かった。机の上に鞄を置くと、なまえがちらりとこっちを見た。
「みょうじ、お前も便乗してこいよ、ほらっ」
小声で隣人をけしかける。けれど彼女は「むむむっ、無理だよ」と言ってぎゅっと肩を狭くした。その仕草に、はぁ?と苛立ちを覚える。いつもは煩いくらいに元気なのに、なんでこういうときだけヘタれるのかな。本当、面倒くさいヤツ。
