過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 前編】
第12章 才能と思想と失望
「ナナシ・・・君の言い分はわかった。
調査兵団に来て訓練を受けて、伸び代が皆無という仮説を
打ち砕きなさい」
「仮説ではなく事実を述べているだけだ」
「事実でも良いから調査兵団に・・・・」
「私は壁外にも、巨人にも、人類にも興味は無い。
やりたい奴だけやれば良いのだ。
お主の考えを強制するな小童」
エルヴィンが伸ばしてきた手を避けるように後ろへ下がると、
彼は柔和な雰囲気を捨て威圧的な空気を纏った。
隣にいたリヴァイはそれを敏感に感じ取り、
隠し持っているナイフをいつでも出せるように身構える。
「君は人類がどうなっても構わないと言うのか?
狭い壁の中で巨人に怯えながら暮らしていけ・・・と?」
「そうだ」
「随分他人事のように言うが、これは他人事ではないんだ。
マリアの壁が壊された今、その領土を奪還しなければ・・・」
「私の持論を教えてやろう」
エルヴィンの言葉を遮るように声を張ったナナシは、
睨むようにエルヴィンを見据えた。
それに応えるようにエルヴィンも睨むようにナナシを見つめ、
黙ってナナシの言葉を待つ。
「・・・『自分達でどうにもならないなら、
それが運命だ。滅ぶも生きるも人間次第。
私の関係ないところで勝手に生きて勝手に死ね!』
・・・それが私の持論だ」
エルヴィンの蒼い瞳が見開かれ、
そこに怒りと失望の色が浮かんでいるのがわかった。
グシャリと持っていた書類を握り潰した拳が怒りに震える。
「・・・・君が・・・君が、それを言うのか?
仮初の平和を享受している奴らと同じ事を・・・・」
「・・・・・・私にとって・・・・敵は巨人ではない・・・・」
「では・・・君にとっての敵とは、何だ?」
エルヴィンを見ているはずのナナシの目が
自分ではなく遠くを見ているのに気づき、
冷静さを装って問い掛けた。
無理をして冷静さを繕っているエルヴィンを嗤うように、
無表情だったナナシの顔に笑顔が貼り付く。