過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 前編】
第10章 もう子供じゃない
幼い子供だった彼が今では自分よりも大きい身体をしていて
見下ろしてくるなんて・・・と少し感傷的になった。
「・・・言い忘れていたが・・・・・」
「ん?」
「良い男になったな、坊・・・」
何となく感じた事を口にしただけだった。
それなのに、目の前の男は嬉しそうに破顔して
当たり前のように唇を重ねてきた。
触れるだけのキスをすると、
顔を離して不敵な笑みを浮かべたエルヴィンの顔が映る。
「その言葉・・・ずっと聞きたかったよ。
それと私はもう『坊』じゃない」
「・・・私にとってお主はいつまでも『坊』だ」
エルヴィンは寂しそうな笑みを浮かべて溜息を吐いた。
それが何を意味しているのかわからず
ナナシが首を傾げていると急に視界がグルリと廻り、
目の前に青い空が広がった。
器用に押し倒されたのだと理解したのは、
自分の顔を覗き込んでくる彼の顔を見た時で・・・・
先程見せた寂しそうな笑みではなく大人の笑みを口元に浮かべている。
「いつまでも子供扱いしているとこうして食べられてしまうよ?
男はケダモノだからね」
「私も男だが・・・?」
「私にとってそれは瑣末な事だな。
君が男でも女でも構わないと思っている。
それ程に君を想っているとわかってもらえないものかな?」
「お主はただ誤解しているだけだ」
「誤解?」
「たまたま印象に残った幼少時の思い出を恋愛と勘違いしておるのだ。
お主は私が好きという訳ではない。むしろ・・・」
エルヴィンの蒼い瞳が細められ仄暗い印象をナナシに与える。
そう、彼はとっくの昔に壊れていたのだ。
路地で出会ったあの時には既に・・・。
「どのように言い含めて利用して使い潰そうか・・・・と
考えておるのだろう?」
「・・・・・・・・・・・」
エルヴィンの顔から完全に笑みが消え、
沈黙が空気を重くさせた。
ナナシは恋愛等の機微には疎いが、
エルヴィンから向けられる感情の中に、
そうではない何かがあるのは感じ取っていた。
何の感情かはわからないが、
愛情とは程遠いどす黒い何かが向けられているのだけはわかる。