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過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 前編】

第19章 ナナシの能力





「・・・私の体への負担が予想以上だったのだ。
疲弊が激しく自身の生命維持も危うい。恐らく次に使おうとしても、
巨人相手に今の状態では発動も出来まい」

「つまり・・・?」

「これ以上使えば命を削り過ぎて死ぬ・・・という事だ」

「・・・・・っ」


ナナシの顔色が悪いと今更ながら気づき、
彼が本当の事を言っているのだと息を呑んだ。

人類の為にエルヴィンは自分の命を捨てる覚悟が出来ている。

そして他人にも「人類の為に散ってくれ」と
命令を出してきたのも事実だ。

犠牲なき勝利はありえないと、
より多くの人の為に少数を切り捨ててきたが、
それでも仲間の死は辛かった。

公私は分けていたつもりだったが、
ナナシを前にするとそれが崩される。

能力が無かったとしてもナナシはエルヴィンにとって特別な存在なのだ。

「人類の為に死んでくれ」という言葉が
どうしても喉から出てこない現状に、
ここで私事を出してしまったら今まで死地へ追いやった仲間に
顔向け出来ないと思った。



死んだ彼らにだって想い人がいたはずなのだから・・・。



「・・・私は今までこの能力に頼りきっていた訳ではないから、
お主のように絶望的には思わん」


知らず目を瞑っていたエルヴィンは、
その言葉に弾かれたように目を開け瞬く。

表情の無かったナナシが綺麗な微笑を浮かべながら、
エルヴィンの手に自分の手を重ねた。


「他は出し惜しみするつもりはない」

「・・・他?」

「どちらかというと白兵戦の方が得意でな。
明日・・・もう今日か、否が応でもそうなるだろう?
そちらで頑張るさ」

「しかし、君は立体機動の腕が・・・」

「舐めるなよ、小童。
お主らのように立体機動装置に頼り切った戦い方などせぬ。
私には私なりの・・・地を這う戦い方があるのだ」

「地を這う戦い方?」

「お主らが空を舞う戦い方と言うならば、
下から攻撃する私の戦い方はそれだ。
慣れた手法を使った方が生存率も上がる。
これで私が死んでもお主のせいではない。
お主は『団長』として仕事を為すが良いさ」

「・・・・・・・・・・」


恐らく最後の言葉が言いたかった事なのだろう。
小さい子供に言い聞かせるような声色で
エルヴィンを諭す姿は、昔と変わらなかった。



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