過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 前編】
第18章 『迅鬼狼』のアジト
―――数時間経つと、今まで座り込んでいたナナシがすくっと立ち上がって
「そろそろ限界らしい」と告げた。
本を読むことに根を上げたミケと交代したリヴァイが
「崩れるって事か?」と聞くと、肯定が返ってくる。
「夜明けまでまだ時間があるはずだが?」
「もう・・・エッカルトは死んでいるから、
これ以上は保たないようだ」
ナナシがそう言うと、蝋人形のような死体が砂になって
床に崩れ始めた。
身体の先端から徐々に崩れる死体にエルヴィン達は
胸に手を当て敬礼をする。
この老人が何者であるかは知らないが、
彼が集めた物資によって調査兵団が救われたのは事実だ。
その行動にナナシは目を丸くして驚いた。
敬礼が終わると彼らは地上への通路に歩き出したが、
ナナシがいないことに気づいたエルヴィンは仲間を先に行かせ
自身は来た道を戻る。
きっと、あの老人の傍にいるだろう。
このままここに置いていく訳にはいかない。
遺体がある部屋の入り口付近で何かがブーツに当たる感触がして
エルヴィンは、何だ?とそれを拾い上げた。
それは小さな日記帳で、所々劣化で読めない部分もあったが
この家の主が書いたもののようだ。
パラパラ中身を確認すると、
日常生活というより仲間や想い人への思慕が綴られていた。
エルヴィンは日記帳が赤いインクで書かれていない事に気づき、
ダメだとは思いつつそれを懐に仕舞った。
もしかしたら、この中にナナシの事も書かれているかもしれない。
帰っても読めなければそれまでだと、
半ば諦めの気持ちもあった。