過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 前編】
第16章 強行軍の帰還
「ナナシ、馬には乗れそうか?無理なら荷馬車にという事だが」
「問題ない。馬に乗る」
「そうか、ならリヴァイの所に行け。馬を用意しているはずだ。
すまんがナナバ・・・・」
「オッケー、リヴァイのとこに連れて行けば良いんだね」
心得ていると微笑うナナバにミケは満足そうに頷くと、
ナナシの頭をポンポンと優しく叩いた。
子供にするような扱いに怪訝な顔を向けたが、
ミケは軽く笑っただけで忙しなくテントから出て行く。
一体何なのだろう?と不思議に思っていると、
隣に居たナナバが「あぁ見えて小さい生き物が好きなんだよ」と
失礼なフォローを入れた。
あれか?自分は小動物と同じ扱いなのか!?
少しムカついたものの、小さい事は変わりないので
ナナバの言った事は聞かなかったことにする。
渡された食糧を食べ終わってから、ナナバに連れられリヴァイの所へ行くと、
「来たか」という言葉と共に馬を渡された。
「じゃあ、私は自分の隊に戻るね」と言ってナナバは立ち去り、
リヴァイの部下らしい四人の兵士が首を傾げながら
ナナシを見つめる。
「こいつを乗りこなせそうか?」
コクリと頷くと、リヴァイから隊列についての説明を受けた。
どうやらリヴァイとその班はかなり後方に布陣するようだ。
「あの兵長・・・そいつは?」
困惑げに部下と思わしき金髪の男がリヴァイに尋ねてくると、
リヴァイは静かにそれに答えた。
「こいつは今から俺達と行動するナナシだ。
訓練は受けてねぇからサポートしてやれ」
「は?訓練受けてないって、どういう事ですか?」
「この非常時に、そんな新兵を押し付けられ・・・ぐふっ!」
短髪の真面目そうな男が更に詰め寄り、
くせ毛の男が舌を噛みながら何かを言うと
リヴァイは少し声量を落としながら言った。
「開閉扉の故障を伝えに来たのはこいつだ」
「っ!?」
リヴァイの言葉にリヴァイ班の面々は驚愕の表情を浮かべ、
言葉にならない声を上げながらナナシを凝視した。
フードを被ったままの人物はどう見ても15歳くらいの小柄な新兵で、
リヴァイと違い女性のような華奢さがある。
一人で壁外を疾走してきた逞しい人物像とはかけ離れた存在に
沈黙が落ちた。