第16章 雄英文化祭編
「…………っ」
上鳴は天を仰いだ。
「だから、それがダメなんだって……!」
「何がダメなんだよ、うるせぇな!」
爆豪の怒声が飛ぶ。
しかし、彼自身もまた、先ほどから妙に落ち着かなかった。
目を覚ましたばかりの彼女は、普段よりも少しだけ無防備だった。
寝起きの柔らかな声も、ぼんやりと瞬きをする仕草も、エリを見つめる穏やかな眼差しも。
そして、あの笑顔。
――チッ。簡単に笑いやがって。
いや、違う。
笑うこと自体はいい。
むしろ、もっと笑っていればいいと思う。
ただ、あんな顔を目の前で見せられて、平気でいられるほど、自分はできた人間ではなかった。
先日、廊下で彼女と向き合ったときのことが脳裏をよぎる。
あのときも、彼女はあんなふうに悪戯っぽく笑った。
こちらの動揺を見透かしたように、わざと距離を詰めてきて。
「おやすみ、勝己くん」
あの声を思い出した瞬間、爆豪は手にしていたスティックを握り直した。
「……クソ」
「かっちゃん、顔赤くない?」
緑谷が何気なく尋ねた。
「赤くねぇ!!」
「うわっ!ご、ごめん!」
「デク、テメェは黙ってろ!」
そのやり取りに、瀬呂と上鳴が肩を震わせる。
「……あいつ、ほんっとわかりやすいな」
「てめぇも、死にたいのか?」
「物騒だな、こえー」
瀬呂は即座に口を閉じた。
その横では、轟が相変わらず真顔でおもちを見つめていた。
「……おもち、楽しそうだな」
「轟くん!?」
緑谷が思わず声を上げる。
「何だ?」
「いや、その……!」
「事実を言っただけだが」
轟は本当に不思議そうだった。
その正直さに、上鳴はとうとう耐えきれず、瀬呂の肩に顔を埋めた。
「……なあ、今日の俺たち、心臓もつかな?」
「無理じゃね?」
「だよなぁ……」
そんな騒がしいクラスメイトたちをよそに、おもちは腕の中のエリを見下ろしていた。
「エリちゃん、みんなと仲良くなれた?」
「うん!みんな、やさしいの!」
「それはよかった」
おもちは微笑み、エリの頬にかかった髪をそっと払った。
「また遊びに来てね」
その言葉に、エリの顔がぱっと輝く。