第16章 雄英文化祭編
週末の雄英高校は、平日とは違った空気に包まれていた。
仮免補講のない爆豪と轟も加わり、文化祭に向けたバンド練習は夜遅くまで続いていた。最初はぎこちなかった演奏も、繰り返すうちに少しずつ形になっていく。音が重なり、誰かが失敗すれば笑い声が上がり、気づけば時間を忘れて夢中になっていた。
そして、時計の針が二十二時を回った頃。
ようやく練習を終えたおもちは、入浴を済ませると、薄手のキャミソールに柔らかなカーディガンを羽織り、ショートパンツ姿でロビーのソファへと戻ってきた。
「さすがに疲れたわね……」
小さく呟き、長い脚をソファの上へ投げ出す。
普段、制服姿でいる彼女からは想像しにくい、気の抜けた格好だった。
濡れた髪からは、ほのかに甘い香りが漂っている。カーディガンの袖から覗く指先で、彼女は手元のペットボトルを弄んでいた。
隣に座っていた爆豪は、そんな彼女を横目で見たものの、すぐに視線を手元へ戻した。
耳郎から渡された、歌い方やリズムの取り方についてのアドバイスを書き留めたノート。
明日の練習までに確認しておこうと開いたはずなのに、どうにも集中できない。
原因は、隣にいる女だった。
「……」
ページをめくる。
そのたびに、隣から柔らかなシャンプーの香りが漂ってくる。
気にするな。
そう自分に言い聞かせ、文字を追う。
しかし、視界の端では、おもちが少しずつ姿勢を崩していくのがわかった。
最初は背もたれに身体を預けていただけだった。
それが次第に頭を傾け、ゆっくりと瞼を閉じていく。
疲れているのだろう。
今日も、初めて触れるエレキギターを驚くほどの速さで習得し、耳郎と何度も歌の練習を繰り返していた。人前で歌うことにはまだ緊張があるらしく、納得がいくまで何度もやり直していたのを、爆豪はずっと見ていた。
普段は何でもそつなくこなすくせに、こういうところでは妙に真面目で、妙に一生懸命なのだ。
そんなことを考えていた、そのときだった。
ぽてん。
「……っ!?」
突然、肩に重みが加わった。
爆豪は、手にしていたノートを止めた。
隣を見る。
おもちが、すっかり眠り込んでいた。