第16章 雄英文化祭編
自分の好きな音楽を、誰かと分かち合いたい。
その気持ちが、まっすぐに伝わってくる。
おもちは、耳郎の手を見つめた。
公安での任務なら、どんな状況でも冷静に判断できる。
相手の意図を読み、最適な行動を選び、必要ならば自分の感情さえ切り離してみせる。
けれど、こういう誘いには慣れていなかった。
誰かと一緒に何かをしたいと、純粋な気持ちで声をかけてもらうこと。
自分の歌声を覚えていてくれたこと。
そして、その歌声をもう一度聴きたいと願ってくれたこと。
それが、こんなにも嬉しいなんて。
「……ふふ」
気づけば、自然と笑みがこぼれていた。
「そんな風に覚えていてくれたなんて、思わなかったわ」
「そりゃ覚えてるよ!」
耳郎が照れくさそうに笑う。
「だって、めちゃ良かったんだもん」
その言葉に、おもちは少しだけ目を伏せた。
そして、再び耳郎を見つめる。
「……私でよければ、喜んで」
「本当!?」
耳郎の顔がぱっと明るくなった。
「うん。一緒に、素敵なステージを作りましょう」
「……っ、ありがとう!」
耳郎は嬉しそうに笑い、彼女の手を握ったまま小さく跳ねた。
その姿に、周囲から歓声が上がる。
「決まりだな!!」
「これは絶対に成功するぞ!」
「よーし!じゃあ俺たちも全力で盛り上げるぜ!」
「衣装も考えなきゃね!」
「演出も必要ですわね!」
次々にアイデアが飛び交い、共有スペースは一気に賑やかになった。
少し離れた場所で、爆豪は腕を組んだまま、その様子を眺めていた。
耳郎とおもち。
二人が並んで歌う姿を想像する。
耳郎の歌声と、おもちの伸びやかで耳に残る歌声。
確かに、悪くない。
いや、むしろ――。
「……チッ」
自分でも認めたくないほど、楽しみだった。
だが、周囲が盛り上がる中で、爆豪の視線は自然とおもちへ向かってしまう。
彼女は耳郎と顔を見合わせ、楽しそうに笑っていた。
いつもの、どこか余裕を感じさせる微笑みとは違う。
純粋に誘われたことを喜び、クラスメイトと一緒に何かを作ることを楽しみにしている顔だった。
その表情を見て、爆豪の胸の奥が、ほんの少しだけ熱くなる。
――あいつ、あんな顔もするんだな。