第16章 ★
船は穏やかに進んでいた。
波は静かで、空はやけに明るい。
デッキにはいつもの騒がしさが戻っている。
その片隅で、ルフィたちが甲板に座り込んでいた。
「おっ!きたー!」
「引いてるぞ!」
「逃がすなー!」
水しぶきが上がって、笑い声が弾ける。
それだけでまた、何事もなかったように空気が流れていく。
笑い声が風に混ざって、デッキの熱だけがゆっくり動いていた。
サンジはその声の中に戻っていくように、自然にキッチンへ向かった。
手はいつも通り動く。
鍋を確かめ、食材を並べ、火の具合を見る。
何も問題はないはずだった。
それでも、さっきの一瞬だけが、どこかに残っている。
「……みか」
小さくこぼして、すぐに煙の中へ紛らせる。
手が一瞬止まる。
次の瞬間には、何事もなかったように動き出した。
「……気のせいだ」
誰に向けるでもなく落として、鍋に視線を戻す。