第41章 死縄(しじょう)
【死縄(しじょう)】
僕の実家では人が亡くなると、その遺体を縄で縛りつける習慣があります。
正確に言うと「ありました」というべきでしょうか?
最近は全くそういう慣習に従わない家も多いし、やったとしても縛り付けることまではせず、縄を遺体の眠る布団の上にかけることで代用をすることがほとんどだと聞きました。
しかし、私が子供の頃には、まだ、本当に死者の手足をしっかりと荒縄で縛り付けていたのです。私がその光景を見たのは、中学校1年生の時でした。
その頃の私の家族構成は、父、母、弟、それから父方の祖父、祖母、そして、伯父(父の兄)がいました。
その時、亡くなったのは、伯父だったのです。
私の家は少々ややこしく、通常は長男である伯父が継ぐはずだった本家を、三男である私の父が継いでいました。事情はよくわかりません。伯父は若い頃一度結婚したらしいですが、事業に失敗し、離婚して実家に住んでいる、ということだけを知っていました。
父と伯父の仲はさほど悪くなかったようですが、祖父と伯父は犬猿の仲で、さほど広くない家の中でも互いに顔を見ないように暮らしていました。
5月のある日、伯父が趣味のきのこ狩りで採ってきたキノコを夕食で口にした直後、食中毒で、あっけなく死にました。どうやらキノコの中に毒キノコが混ざっていたようだったのです。
幸い、伯父のキノコは他の誰も食べていませんでした。我が家で調理を担当していたのは祖母と母でしたが、以前からたとえ伯父がキノコなどを採ってきたとしても、決して他の家族にそれを食べさせることはなかったからです。
家の中で死者が出たのが初めての経験だった私はびっくりするやら恐ろしいやらでした。医者や警察が来て、家の中がごった返したのを覚えています。
そして、夜半過ぎには、今度は水を打ったように静かになりました。
仏間に伯父が寝かされています。これから、葬儀の日まで、死んだ伯父は家にいると聞き、子ども心に怖くてたまりませんでした。
それでも、次第に好奇心が勝ったのでしょう。夜遅くに、祖父が眠っているという仏間の近くに行ってみたのです。仏間からは何故か明かりが漏れていました。そっと覗くと、そこには青白い顔をした伯父の遺体、それから父が座っていたのです。