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天狐あやかし秘譚

第126章 形勢逆転(けいせいぎゃくてん)


・・・まさか、恋心に込められた『念』で・・・それだけで呪霊と渡り合っているっていうこと!?

呪力、霊力と言葉は違うが、要するにこれは人の想念が紡ぐ『想いの力』である。呪いが具現化した呪霊も、人の思いが呪物や呪術を通じて増幅されたものに過ぎず、その本質は変わらない。

だから、原理的には、そこに込められている『想い』以上の『想念』をぶつければ中和することができるし、場合によっては返り討ちにすることすら可能なのである。

ただそりゃ、原理的には・・・だろ?

もちろん、普通の人間の『想い』は、現実世界にほとんど干渉をしない。呪術師や陰陽師がそれを可能とするのは、符や呪言、媒介となる呪具などによって『想い』を方向づけ、束ね、強化することによってなのだ。

ところが黒咲はそのような増幅をしているわけではない。
そう・・・彼女は純粋にその強すぎる『恋心』のみで、呪霊に拮抗するほどの力を放っていることになる。

「渡さない・・・渡さない・・・近づくな!私の燈矢さんに・・・近づくな!近づくなぁ!」

一旦は呪霊に押し倒されかけた黒咲が、両の腕で呪霊の首を握りしめ、起き上がろうとする。呪霊の方がむしろ苦しそうにうめき声を上げていた。

「・・・な、近づくな、近づくな、近づくな、近づくな、近づくな、近づくな、近づくな、近づくな、近づくな、近づくな、近づくな、近づくな、近づくな、近づくな、近づくな、近づくな、近づくな、近づくな、近づくな、近づくな、近づくな、近づくな、近づくな、近づくな、近づくな、近づくな、近づくな、近づくな、近づくな・・・」

彼女の想いが黒々としたオーラとなってその身体の周囲にわだかまる。

すごい・・・すごいけど・・・!?

「ぐううぅううあああっ!!!」
苦し紛れに手を振り回した呪霊の尖った爪が、黒咲の首筋を貫かんと襲いかかった。

「危ない!!」

鈍い光を放つ爪が黒咲の喉笛を捕らえる寸前、九条が放った水金鞭(みかねのむち)の一閃が、間一髪で呪霊の喉笛を切り裂いた。

「ぎぃやああああっ!!!」

その一撃を受け、断末魔の悲鳴を上げて呪霊がのけぞる。そこで初めて九条を確認したのか、呪霊がさっと踵を返した。
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