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天狐あやかし秘譚

第125章 依々恋々(いいれんれん)


☆☆☆
はあ・・・
溜息がこぼれる。

今日、何度目だろう・・・なんてぼんやりと考える。

「ねえねえ、なんか明咲ちゃん、めっちゃ元気なくない?」
「うんうん。この間、九条様と組まされたの、相当いやだったのかもね」
「え?そんなに!?」
「だって、あれ以来じゃん。明咲ちゃん、溜息ついてるところなんて見たことないし」
「報告書・・・あの明咲ちゃんが1週間も書けてないんだって!?」
「ええ!それは、なんというか・・・相当筆が進まないんだねえ・・・」
「自分の仕事、邪魔されたって思ったのかも。ほら、例のプロジェクト、明咲ちゃん張り切ってたじゃん?それうっちゃって、あの事件に関わることになったっていうのが・・・」
「ああ・・そうかー、明咲ちゃん真面目だからねえ・・・」

同僚たちがなにか言っている気がするが、私の耳には全く入ってこない。ついでに言えば、目の前のディスプレイの文字も、さっきから目を滑ってばかりでちっとも内容がまとまらない。

はあ・・・

あの九条様との『初めての共同作業』から1週間が経っていた。外はどんよりと曇りがち。雨がちらつく日のほうが多い昨今。私の心の中は、その暗雲に負けず劣らず低いトーン一色で塗りつぶされていた。

何も・・・何ひとつ、進展しなかった・・・。

もちろん、九条様は私にとって神にも等しい存在であり、そんな九条様と凡人たる私の間で『なにか』がある、などと期待すること自体が間違っているというのは分かる。分かるのだが、祭部と占部という異なった部署、しかも位階を持っていらっしゃる天才陰陽師・九条様と、平々凡々たる私とがタッグを組んで仕事をすることになる機会など、この先、100万光年経っても訪れないかもしれないのだ。

その、生涯たった一度かもしれないチャンスを、私は棒に振ってしまったわけで。
そのダメージは、私の心に深い、深い傷跡を残したままだった。

まともにお話することも出来なかった・・・。
それどころか、目を見ることすら。

はあ・・・

また、深い溜息が漏れた。
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