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天狐あやかし秘譚

第124章 一途一心(いちずいっしん)


☆☆☆
ぴんぽーん

東京某所のマンション。
九条が呼び鈴を押すとインターフォンから男の声がした。

「どなた?」

どうやらカメラ付きであるようだ。そのカメラに視線を送りながら、意識して柔らかな表情を作る。胸ポケットから宮内庁のIDを取り出してカメラの前にかざした。

「先程お電話いたしました、宮内庁特別管理局の九条です」

しばらく沈黙があり、一言『今、行きます』とだけあって、ぷつりとインターフォンの接続が切れる。ガチャリと鍵が開く音がして、そっと扉の奥から青白い顔をした男がこちらの様子をうかがうように覗いてきた。

「改めまして、宮内庁特別管理局の九条と申します。武井様経由で護衛の依頼を承っております。よろしければ詳しくお話を伺いたいのですが、お時間よろしいでしょうか」
「・・・はい・・・」

通された先は、いかにも一人暮らし用のマンションの一室だった。比較的片付いている方ではあるとは思うが、1DKの狭い部屋には、最低限の家具しかなく、そのどれもが機能的なものばかりだった。ダイニングの片隅には小さめの本棚が据えられており、中には自己啓発関連の本やらAIを活用した営業戦略についての本などが数冊並んでいる。それぞれの本にはしっかり付箋がついているところを見ると、きちんと読み込んでおり、しかも必要なもののみを厳選して残している・・・そんな印象だった。
全体として、それなりの勉強家であり、頭のキレるやり手の男性であると思われた。

ただ、小綺麗なダイニングに比べて、キッチンのシンクには数回分洗っていない食器がそのまま山積みになっていた。おそらくそれは、怪異のせいで生活がままならなくなっているのだろうということを如実に示していた。

「どうぞ」
男にすすめられるままにダイニングのテーブルに腰を掛けた。お茶を用意しようとしてくれたようだが、九条が『大丈夫ですよ』とにこやかに答えると、男もそのまま向かいに腰を下ろした。

だいぶ顔色が悪い・・・。目の下にくまがあるし、来客があるというのに、髭も剃っていない。ここからも相当参っている様子が伺えた。

「橋本燈矢(はしもと とうや)さんですね?」
「はい・・・」
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