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天狐あやかし秘譚

第124章 一途一心(いちずいっしん)


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【一途一心】ひたむきに、一つのことに命を懸けること。
もう、あたし・・・あなたのことしか見えないのよ!みたいな。
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【都内某所にて】

夕暮れ迫る人通りのない町を、ソレは歩いていた。
歩くたびにぐらりぐらりと身体が揺れ、その口元からはヒューヒューと不気味な音を立てて呼気が漏れていた。

ひた、ひた、ひた・・・
 ひた、ひた、ひた・・・

ソレは、ゆっくりと、しかし着実に歩みを進める。

カーブミラーにひらりと白い影が映る。それは白く長い衣服・・・見る人が見れば白っぽいワンピースのようなものだった。洗いざらしのようなバサバサとした長い髪の毛が顔の前に無造作に掛かっており、ソレの表情は周囲からうかがい知ることはできなかった。しかしそれでも時折、髪の毛の隙間からは眼(まなこ)が覗いており、それは、昏い洞のように光を失ったようなのっぺりとした黒色だった。

目指すところは分かっている。そして、その虚ろな瞳に、ついにその場所が『視えて』きた。

ニタアァ・・・

口を大きく開いて満足気に笑う。

ソレは思った。
『後は成すべきことをするだけ』

首を曲げ、その場所を見上げる。目指している場所は、ある『男』の住まいであった。

ところが、彼女にとって予想外のことが起きた。
建物の窓から、男がひとり、こちらをじっと見ていたのである。

ぶるりと、ソレは体を震わせる。
入り込む前に見られてしまっては、これから成そうとすることはできぬ理(ことわり)だ。
『仕方がない・・・』

ソレはゆっくりと踵を返す。そして、そのまま茜射す町の向こうに消えていった。

この時、偶然にもソレを見出してしまった男は、そのあまりの異様な姿に、ブルブルと身を震わせることになる。彼がやっと動き出せたのは、そのこの世のものとは思えないような異様な影がオレンジの夕焼けに溶けるように消えてから、随分と時間が経ってからのことであった。
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