第121章 一気呵成(いっきかせい)
私や女の子が自身に怯え、震えるさまを見て楽しんでいるのだ。この獣は・・・。
それが分かっても何もできない自分の非力さに歯噛みする。今の私にできることは、身体が震えないように精一杯虚勢を張って、獣から目をそらさない・・・それだけだった。
「そうだな・・・まずはお前だ・・・よい匂いのする女。次にそこの結界の中の者・・・10年熟成させた我が獲物は・・・最後の水菓子と言ったところか」
再び獣の鼻先が近づいてくる。実際に舐め上げられてはいないが、まとわりつく気持ちの悪い気配に、まるで全身を唾液まみれの舌で舐め回されているような気色悪さを覚える。
食われる・・・そう覚悟した時、『ん?』と獣がその動きを止めた。
「ふがふが・・・が・・・」
見ると獣の後ろ足に佐那が文字通り歯で齧りついていた。何かを言っているようだが、かじりつきながらなので、ふがふがとしか聞こえない。獣はそんな佐那を一瞥すると、まるで羽虫を払いのけるかのごとく、足を振り払う。
「ぎゃん!」
またしても佐那は弾き飛ばされるが、今度はうまく受け身を取ったみたいだ。かろうじてくるりと空中で回転し、態勢を立て直すと、バン、と大地を踏み込み、再び獣に突っ込んでいく。
「お前・・・うっとおしいな・・・」
突っ込んでくる佐那を黒く長い腕で軽くいなしていく。それでも、何度も、何度も、佐那は獣に突っ込んでいく。そのたびに獣の腕や足に弾かれ、吹き飛ばされてしまい、衣は裂け、顔も腕も傷だらけになっていく。
「さ・・・佐那・・・!」
ダメなんだ。もう、本当に妖力がないんだ。
だから、あんな無謀な突撃を繰り返すしかないんだ。
「あ・・・綾音様・・・早く・・・お逃げを・・・」
なんとか、なんとかしないと・・・佐那が、佐那が・・・!
私はジリリっとポケットに入っている石釘のケースに手を伸ばそうとするが、その動きはすぐに獣に見抜かれてしまう。
バシン!と手を叩かれ、ケースが再び吹き飛ばされてしまった。
・・・っ!
「弱い・・・弱いなあ・・・お前ら・・・弱ぇなあ・・・弱えぇ奴は死ぬんだ・・・食われて死ぬんだよぉおおお・・・」
くっくっく・・・と、さも可笑しそうに獣は嗤う。その傍らで突っ込んでくる佐那を適当に手や尻尾で払い除け続ける。まるで大人と子どもの戦いだ。勝負にすらなっていない。
