第2章 寂しいネコ
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目が覚めた。気がつくと仰向けに寝ており、音子が俺の右腕を枕にしてすやすやと軽い寝息を立てていた。
夢じゃなかったのか・・・。
一瞬、昨日のことが夢であればいいと思ったが、どうやら違うらしい。
しっかりと実在がある人間がそこにいた。
俺は音子を起こさないようにそっと腕を引き抜くと、代わりに頭の下に枕を敷く。
うーんと少し反応したが、起きることはなかった。
腕に、軽いしびれが残る。人の重みと温かさ。
音子はTシャツ一枚なので、素足があらわになっている。直視していると妙な気分になってくるので、そっと目をそらした。
ああ、随分昔のことを思い出した・・・。
俺は軽く頭を振る。時計を見ると4時30分だ。起きようとしていたのは6時だったので、まだ時間がある。
しかし、この女性をどうしよう。今日も仕事はあるし、昨日の様子だと、帰れと言っても帰ってくれそうにない。しかし、ここにずっといさせるわけにもいかない。
しばらく考えたが良い答えが出るわけでもなかった。
少し早いが、もう一眠りするほどの時間はない。仕方がないので、音子の分も含めて朝食を作ることにした。
簡単なものしかないぞ。
レタスをちぎり、トマトを添えた簡単サラダに、オムレツ、ハム、バタートーストだ。それに作り置きしてあった野菜ジュースベースの簡単ミネストローネだ。インスタントだが、アイスコーヒーもつけてみた。
「おい、ね・・・美鈴さん・・・」
思わず「音子」と呼びそうになり、改めた。あまり馴れ馴れしいのも良くないだろう。節度が大事だ。
何度か肩を揺すると、例の「ふにゃ?」という起動音とともに、目を覚ました。
「朝ごはんを作ったぞ」
言うと、ぱっと目を輝かせて起きる。
「朝ごはん!」
立ち上がり、食卓を見て歓声を上げる。そして、そのままドタドタとトイレに、用を足すと手を洗い、さっと椅子に座った。
「市ノ瀬さん!頂きましょう!!とても美味しそうです!!」
その姿を見て、思わず笑ってしまった。そして、音子は朝食もまたよく食べた。
俺が食べきる前に食べ終わり、パンのおかわりまで所望する。
「音子が洗い物をします!せめて、せめて」
と言うので、まかせてみた。見ていると、なかなか手際よく洗ってくれている。しばらく見てて、大丈夫そうなので、俺は自分の準備をすることにした。
