第9章 お仕事ネコ
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音子はスースーと気持ちよさそうに寝息を立てているが、ギュッと抱きしめられたままのせいか、俺はなかなか眠れなかった。
目を開けると、目の前には音子の頭頂部が見える。
この子はいったいなんなんだろう。
音子がうちに来てからというもの、幾度ともなく抱いた疑問だ。
こんなおじさんに、こんなに好き好きアピールをして。
手をつなぎたがったり、一緒に寝たがったり。
俺がもし、お前のことを襲ったらどうするつもりだ!?
「音子は全然構いません!」
とか言うのか?言いそうだな。
ただな・・・。お前の未来に俺は入る余地はないよ。
年齢が違いすぎる・・・。
それなのに・・・
俺は今日ことを思い出す。俺が他の女性と話しただけであんなにヤキモチを焼くとは。
正直、ちょっと面倒くさい。
でも、なぜだかちょっと、ほんのちょっとだけだけど、嬉しかった。
こんなに大事に思われてると感じたのはいったい何年ぶりだろうか?
もしかしたら、前の妻との間でもこんな感じは感じなかったかもしれない。
周囲の人が俺に求めているのは、「機能」で、俺の「存在」じゃない。
金を稼ぐ機能、
仕事をする機能、
自分の都合よく何かをしてくれる、そんな「機能」。
求めているのは、機能が全てで、俺の存在ではない。機能は代替が効く。
いい例が前妻だ。金さえ払ってくれればいいと言う。
でも、音子は俺そのものを求めている。俺の「存在」をひたすらに求める。
それが、俺にとって、どんなに嬉しいことか、きっと、音子はわからないだろう。
ああ、まずいな・・・。俺は音子を『愛おしい』と思い始めてしまっている。
未来がないのに・・・、苦しい結末になるのは分かっているのに・・・。
でも・・・、ここまでひとりで頑張ってきたんだ。こうして目の前にいる、こんなにも温かい気持ちを、もう少しだけ、感じてもいいのではないだろうか。
傷つけないから、絶対、悲しませないから。
だから、すまない・・・、ちょっとだけ、わがままをさせて欲しい。
この日、俺は初めて、音子の身体に腕を回して、そっと抱き寄せたのだった。