第7章 七夕に願うネコ
俺は俺で笹に願いを吊るす。だいぶ高いところにつけたので、音子の身長では見えないだろう。俺の願い事も、そんなに音子に見せられたものではない。
えっち、とは思わないが、まあ、お互い様だな。
「さて、願い事もしたし、帰るか」
「はい!」
音子が、ばっと俺の腕に飛びついてくる。暑い、と言おうと思ったが、日も暮れて、気温も下がっているし、まあいいか。
今日は七夕だしな。
☆☆☆
神社の境内を夏の風がやわらかく吹き抜ける。
揺らされた笹に連なるいくつもの願い。
「勉強ができるようになりますように 裕太」
「きれいになれますように 陽子」
「いい仕事が見つかりますように 田上裕也」
「東大に合格しますように 花江」
・・・多くの人の願いが吊り下がり、笹が重そうにたわんでいる。
中に、ひときわ重い願いがふたつ。
「音子を幸せにしてくれる人がちゃんと現れますように 市ノ瀬直行」
「市ノ瀬さんが世界一幸せになりますように 美鈴音子」
風にくるくると回るふたつの短冊。
互いに言えない、優しい願い。