第2章 寂しいネコ
暑いので開け放った窓から青い月影が落ちてきている。その光に照らされる音子の顔を見ていた。きれいな絹のような前髪が額にかかっている。鼻筋がすっと通っている。閉じたまぶた、長いまつげ。白磁のような頬に月明かりが跳ねている。小さな口が呼吸に合わせて少しだけ動いていた。
甘い女性特有の匂いがする。眠りに落ちる直前の火照ったような体温が伝わってきた。
そっと彼女のおでこに手を伸ばしかけて慌てて引っ込めた。
『音子はずっと、ずっと、寂しかったから・・・』
寂しいのは俺も同じだ。
音子の顔を見ていると、なかなか寝付けない。ややもすると忘れかけていた衝動があふれてきてしまいそうになる。しかし、それは許されることでない。
早く、早く・・・お前の本当にいるべきところに帰れよ・・・。
音子の寝息を感じながら、俺は無理矢理に意識を闇に集中させ、眠りが訪れるのを待った。