• テキストサイズ

偽りの私たちが零す涙は【保科宗四郎】

第5章 仮契 〜契初〜


遅うなってもうた。急いで家に帰り、鍵を開けて玄関に入ると、朝霧が目の前で座って寝ていた。

嘘やろ…玄関で待っとるなんて聞いてへん。

昔からこの子の健気さは知っているが、偽装で結婚した旦那にまでそんなことをする必要はないだろう。

「ここで寝たらあかんやろ?」

俯いて顔にかかる髪をそっと掻き分ける。頬を軽く親指で拭って手の上にあるスマホを取り、そのまま抱え上げる。

相手は朝霧やない方がよかったやろか…ここまで尽くしてくれるとは思わんかった。僕との結婚が負担にしかなってへん。

彼女の部屋に運び、一度降ろしてから布団を敷く。布団の上に寝かせ、しっかり掛け布団で包み込んでから柔らかい髪を撫でた。

「僕、君のこと、惑わしとるな。嫌になったら言うてな?すぐ終わらすから」

朝霧は大切な部下や、それやなのに僕は、無意識にこの子を惑わしとる。偽装やのに手ぇ出してすまん。あかんねん、近くにおったら触れたなってまう。その身体が僕を惑わす。

この子に気持ちがあるわけではない、ただ…この距離に女の身体があるから。

これ以上触れてしまわないように部屋を出てリビングに向かう。テーブルの上には冷えた夕食が置かれていた。

「なんで食ってへんねん…」

冷えた飯でも美味かった。
/ 413ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp