第5章 仮契 〜契初〜
遅うなってもうた。急いで家に帰り、鍵を開けて玄関に入ると、朝霧が目の前で座って寝ていた。
嘘やろ…玄関で待っとるなんて聞いてへん。
昔からこの子の健気さは知っているが、偽装で結婚した旦那にまでそんなことをする必要はないだろう。
「ここで寝たらあかんやろ?」
俯いて顔にかかる髪をそっと掻き分ける。頬を軽く親指で拭って手の上にあるスマホを取り、そのまま抱え上げる。
相手は朝霧やない方がよかったやろか…ここまで尽くしてくれるとは思わんかった。僕との結婚が負担にしかなってへん。
彼女の部屋に運び、一度降ろしてから布団を敷く。布団の上に寝かせ、しっかり掛け布団で包み込んでから柔らかい髪を撫でた。
「僕、君のこと、惑わしとるな。嫌になったら言うてな?すぐ終わらすから」
朝霧は大切な部下や、それやなのに僕は、無意識にこの子を惑わしとる。偽装やのに手ぇ出してすまん。あかんねん、近くにおったら触れたなってまう。その身体が僕を惑わす。
この子に気持ちがあるわけではない、ただ…この距離に女の身体があるから。
これ以上触れてしまわないように部屋を出てリビングに向かう。テーブルの上には冷えた夕食が置かれていた。
「なんで食ってへんねん…」
冷えた飯でも美味かった。