第4章 青の時代 〜忘れられないあの日の思い出 𝓟𝓪𝓻𝓽3〜
中也が重力の波動を纏い、一歩踏み込む。
美鈴は桜霞刀を握り直して、花弁が再び渦を巻いた。
次の瞬間、轟音と共に二人の衝突が切り裂いた。
地面が砕け、空気が裂ける。
紅葉の刃が横を走り、美鈴の袖が切り裂かれる。
美鈴は息を切らしながらも、花弁を砕けた地面から呼び寄せ、再び刀を生み出す。
(これで終わらせる!)
だが、振り抜かれた中也の重力を纏った拳が美鈴の刀よりも先に胸元に届いた。
「もういい」
重力の一撃が美鈴の意識を奪い、膝が崩れる。
倒れ込む美鈴を中也がそっと腕で受け止めた。
「相変わらず女泣かせじゃのう、中也」
美鈴の意識を失った体を片腕で支えながら、中也はそっとその頬に付いた血を指先で拭った。
紅葉は傷ついた仕込み刀をゆるりと納め、艶やかな瞳で中也を見下ろす。
「どうするのじゃ?お主を追って其奴が来たのじゃ、何かあるのだろう?」
紅葉の声はどこか艶やかで、しかし探るように冷たい。
中也は立てた膝の上に美鈴を寝かせ、その髪を一度だけ撫でると静かに帽子を被り直した。
「此奴がここに来ることには予想が付いていました」
低く吐き出した声には微かに苦笑が滲んだ。
「この件の処遇については俺に任せて貰えませんか?」
紅葉は赤く滲んだ袖を指先で摘み、くすりと笑う。
「無論、最初からそのつもりじゃ」
「ありがとうございます」
中也は倒れた美鈴の頬をもう一度確かめると、肩を貸してゆっくり立ち上がった。