第11章 ドキドキ期末
教室の窓から差し込む朝の光は、いつもより少しだけ冷たく感じた。
白く並んだ机、配られる問題用紙。
カツン、と響く鉛筆の音に、静かな緊張が張り詰める。
『……やるしか、ないよね』
小さく深呼吸して、シャーペンを握る指に力を込めた。
この数日間の勉強漬けの日々。
笑い合った夜。眠気と戦いながら問題と向き合った朝。
あの全部が、今ここに繋がっていると思うと──
少しだけ、胸があたたかくなる。
ちらりと視線を横に向ければ、切島くんはペンをくるくる回しながら問題文をにらみつけてて、
瀬呂くんは眉を下げながらも真剣そのもの。
上鳴くんは……もう1問目から小声で「うわぁ」と呻いてるし、
勝己はいつも通りの真剣な眼差しで、ペンを走らせていた。
──負けたくないな、って思った。
でも、誰かと比べたいわけじゃなくて。
私自身が、あの時間を無駄にしたくないって、そう思えた。
『……よし』
ページをめくるたび、迷いが減っていく気がした。
私の中にある知識と想いが、ちゃんと文字になっていく。
「残り10分前です」
先生の声に、教室の空気がまたひとつきゅっと引き締まる。
でも不思議と、焦りはなかった。
最後の記述式の設問。
「“個性”と“社会”の関係について、あなたの意見を述べなさい」
私は迷わずペンを動かす。
『個性は、力です。だけどその力は──
誰かの心に寄り添ってこそ、本当の意味を持つ。』
その一文を書き終えたとき、
ほんの少しだけ、自分のなかにある何かが形になった気がした。
チャイムが鳴る。
用紙を前に出して、鉛筆を置いた瞬間、
私の肩がふっと軽くなった。
窓の外は、相変わらず夏の陽射しで眩しくて、
でも、世界が少しだけ違って見えた。
──次は、実技。
けれど今はまず、この数日を乗り越えた自分に、小さくおつかれさまを言いたい。
『……やっと、終わった』
そのつぶやきは、少し照れくさいほどの達成感と一緒に、
胸の奥にぽんと響いていった。