【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第30章 Final Stage Ⅲ 〜宿命の斬光、桜は血に咲く〜
「そして、その最高司令官が『大指令』を持つ、世界の軍を個人が所有する」
「そうだ」
その言葉には、重い覚悟が込められていた。
福地はわずかに微笑んだ。
過去の誤解と、すれ違いを越えた今、彼はようやく『福沢諭吉』という友を見ていた。
「だがそれは世界を征服する為ではない。逆なのだろう?お前の目的は世界から戦争を無くす事」
福地が、血の滲む唇を湿らせてゆっくりと語り出す。
どこか遠い目をしながら、彼の声は時間の奥底から掘り起こすように、重く低く響いた。
「三十六年後だ。或る日、『雨御前』による暗号が届いた。そこには三十六年後に起こる『世界大戦』の予言が記されていた」
福沢は微動だにせず、黙って耳を傾けていた。
福地の声音には、確かな『未来』の重みがあった。
「多国間紛争が火種となり、発達した無人機と生物化学兵器が二億一千万の人命を奪うと」
その数字を口にしたとき、福地はわずかに眉根を寄せた。
だがすぐに、虚無と決意を混ぜたような目に戻る。
沈黙が数秒、間を繋ぐ。
「福沢、お前ならどうする?」
問いを投げかける福地の目は、どこか懐かしさと諦観を含んでいた。
だが、返答は即座だった。
「‥‥有り得ぬ」
福沢は視線を逸らさずに応じる。
言葉に、かすかな怒気が滲んでいる。
「何故?何故昔は争い今は争わぬ?」
「当然だが関係性の問題だ」
福沢が僅かに顎を引き、静かに言葉を繋ぐ。
「隣県には訪問も容易で知人・家族も多い。それに日ノ本に納税する同胞だ。戦争などする気も起こらぬ」
「そうだ。昔、藩と藩は主権の異なる別の集団−−即ち、『かれら』であった」
福地の目が、細められる。
薄く笑みのようなものが浮かんだが、それは苦笑に近い。