第6章 貴方は何が好き?
「次は豆だね」
カフェ・ジャポーネが「バージルの至高の一杯へと繋がる一歩」だと判明したことで、ビアンカは満足げに息をついた。
これまで試した方法の中で、彼が最もスムーズに飲み干した。エスプレッソでは苦みが強すぎ、アメリカンでは物足りない。アイスコーヒーやネルドリップも悪くはなかったが、やはり何かが足りなかった。
だが――カフェ・ジャポーネは違った。
口当たりの濃厚さ、しっかりとした苦み、そして後味の軽やかさ。彼の求める要素がすべて揃っている。バージルの無言の仕草と「悪くない」の一言が、それを確信させてくれた。
しかし、まだ終わりではない。
ビアンカは楽しそうに手帳を開き、さっそく新たな計画を立て始めた。
コーヒーの味わいは、淹れ方だけで決まるわけではない。使用する豆の種類、産地、焙煎度合い――それらが組み合わさって初めて「至高の一杯」が完成する。
「バージルの好みに合う豆……うーん、やっぱり深煎りがいいんだろうな」
フレンチロースト、イタリアンロースト、もしかしたらフルシティあたりも試す価値があるかもしれない。
産地は?
ブラジル? コロンビア? それとも、マンデリンのような重厚な苦みを持つものか?
考えれば考えるほど、試してみたい組み合わせが浮かんでくる。
「ふふっ……」
試行錯誤しながら、彼のための最高の一杯を見つけ出す――それが楽しくてたまらなかった。
気づけば、向かいに座るバージルがじっとこちらを見ていた。
「……何を企んでいる?」
「ん? 別に~?」
「また妙なことを考えている顔だ」
「妙なことって失礼な。アンタのために頑張ってるんじゃないのさ」
「……勝手にしろ」
呆れたように視線を逸らしながらも、バージルはわずかにカップを引き寄せた。
それを見たビアンカの笑みは、ますます深くなる。
(さあ、まずはどの豆を試そうかな)
研究は、まだまだ続く――。