第6章 貴方は何が好き？

　ネルドリップが成功したことで、ビアンカの探究心にさらに火がついた。

　次に試すのは「カフェ・ジャポーネ」。フレンチプレスやネルドリップのコクを持ちつつも、エスプレッソのような濃密な味わいを抽出できる特殊な方法だ。これなら、バージルが好む「苦みの強さと後味のあっさり感」を両立できるかもしれない。

　慎重に豆を計量し、細かく挽く。ネルドリップのように布を使用するのではなく、ペーパーフィルターを用いてゆっくりと湯を落とす。通常のドリップよりも湯量は少なく、エスプレッソのように濃厚なコーヒーが抽出される。……と、説明はしたがここでエスプレッソマシンが活躍してくれたので楽に済んで良かった。

　――一杯、完成。

　ビアンカは慎重にバージルの前に置いた。

　「試してみて」

　バージルは無言でカップを手に取る。

　一口、含む。

　その瞬間――

　ビアンカは見逃さなかった。

　彼の指先が、わずかにカップを握り直す。

　そして、二口目。

　（……これは、いける！）

　ビアンカの直感が確信に変わる。バージルは一口飲むごとに、僅かに間を置き、まるで味を確かめるように口の中で転がしていた。そして、無言のまま飲み干す。

　カップを置いた彼の表情は、いつもと変わらない無機質なもの。だが、その動作には一切の迷いがなかった。

　「……悪くない」

　それは、彼にとっての最上級の評価。

　「ふふ、やっと見つけたね」

　ビアンカは満足そうに微笑み、すぐさま手帳を取り出した。

　『カフェ・ジャポーネ◎◎◎（最高評価！）』

　記録する手が、嬉しさで少し震えた。