第6章 𝔽𝕠𝕦𝕣 𝕠'𝕔𝕝𝕠𝕔𝕜
杞憂だったらどれほどいいか
彼も
私も
どうすれば誰も傷つかない…?
死んでるように静かな部屋は嗚咽を飲み込み
私ごと飲み込んでしまいそうだった
これでいい、なんて大きな噓
いくらキスしても触れても
こびりついて拭えない足りない
心が欲しい
安心なんてとっくに手放すほど
私はのめりこんでいる_______
『…会いたいよ…ねぇ…もし』
彼なら…いまの私を見て…なんて言うかな
誰にも届かない声はコンクリートの地面に呆気なく溶けていく
手元で目元を拭おうとすると、自分が何かを握りしめてることに気づく
『…これ』
夕暮れに照らされさらに鮮やかさを増した剛翼の一部だった
いつの間にポケットから出してたんだろ
そのとき湿気を含んだ風が吹き付け、全身に浴びる
その拍子に握っていた羽根がするりと抜けて、風に揺られ飛んでいく
『あぁ!まっ…!』
必死に掴もうとするけど既にもう手が届かないどこまで飛んでいて、これ以上身を乗り出すと落ちてしまいそうだった。
…ほんっと、何やってんだろ…
情けなさでまた一粒頬を降りていく。
「 ひかりちゃん、オレのこと呼んだでしょ?」
そう言って口元を緩ませた啓悟くんはどことなくベランダからいつも現れて私の窓を叩く
…もうあり得ない日常なのにっ
「会えない間寂しかったー?」
あれ、いま…幻聴…?
俯かせていた顔を正面に向ける
そこには誰もいなくて、いや正確に言えば剛翼が一つふよふよと浮遊している
『なん…でっ』
「ってほんとはオレが我慢出来なかっただけなんだけど」
声は頭上から振ってくる
恐る恐る顔を上げ、声の正体を確かめる
いないでほしいと願う気持ちもある
けどいまはそれを覆すくらい会いたいという気持ちで溢れてた
゛_____必ず迎えに行く ゛
輝度の高い黄土色の髪、同じ色のジャケットに黒のインナーと手袋
彼の象徴と言えばといってもいい立派な紅色の翼
いつもと変わらいない風貌で、無邪気さを覗わせる笑顔
「 ひかりちゃん、元気してた?」
昨日まで会ってたみたいに何気なく言う彼
゛必ず迎えに行く
そんで二度と離さない_____ ゛