第8章 違う人と任務
今…と思って、術式を放とうとした時
「ふぇっ!?ぼくぅ!?」
夏油くんの伸ばした手は軌道を変え、私の横にいるなまちゃんへと触れた。
ほぼ横並びの私にも、触れてしまえる距離で。
「さすがだ傑ー!人の女に手を出す男は男じゃねぇ!」
ビクッと震えた肩を撫で下ろす。
歓喜に沸く五条くんと穏やかな目の夏油くん、まさか自分が負けるとは思いもしなかったなまちゃん…は目を見開いた後ぱちくりとさせている。
そんななまちゃんの背ビレを…夏油くんはゆっくりと瞬きをした後、滑るように撫でた。
「なまちゃんのまけだよ」
「ぼくのまけ…っ?うぅ、まけちゃったんだぁ…」
しょんぼりと気落ちしてしまうなまちゃん。
「さとるおにいちゃんのまけだとおもったのになぁ」
「ふふ、悟は強いからね。勝ちを譲る気もないだろうし」
「?」
なまちゃんにタッチしたのも、五条くんをあえて避けたのも、夏油くんの裁量なのに
どうして、私をチラリと流し見たのかしら?
「ゆずってくれてもいいのにね!」
「そうだね、少しくらい私にもいい思いをさせてくれたっていいだろうにね」