第7章 五色の夜 安土城編 完結【家康】
「あんたの事が嫌い‥‥とかじゃない。嫌いな人の体調なんて気にかけない、どうでもいい」
少しだけ頬を紅潮させながら家康は話し続ける。
え?嫌われてなかったの?
思い返してみると、
確かに、態度はそっけなかったけど、言葉はいつも私の事を心配してくれるものだったかも‥‥。
「相手も俺の事を、同じ位、好いてくれてなきゃ‥‥嫌‥‥なんだ」
庭からざあっと、風が吹き抜ける。
家康の柔らかそうな髪がふわりと揺れた。
「‥‥」
「他の誰ともせず、俺とだけじゃなきゃ‥‥嫌‥‥」
私は相当驚いてしまって、なかなか言葉が出なかった。
「そんな考え、普通じゃないかもしれないけど。たぶん独占欲が強すぎる」
「‥ううん!!それがいいと思う!!‥‥っげほっげほっ!!」
この時代に、こんな感覚を持っている人がいることに驚き嬉しくなる。
驚きすぎて一気に喋ってむせてしまった。
「ちょっと大丈夫?」
やだ恥ずかしい。
家康は背中をさすってくれた。
「あんたもそう思うの?そう‥‥したいの?」
「うん‥」
でも、私は駄目な人間。
流されてしまってる。
考えを貫けていない…。
「‥‥‥‥」
「そうした方がいい。辛いんでしょ。あんた」
「‥‥‥‥」
「目がちょっと腫れてる。泣いたんでしょ?」
泣いたこと、気づいてたんだ。
家康の翡翠色の瞳を見ると、心から心配してくれているのがわかる。
「わかってるのにそうできなくて‥‥自分が嫌で‥‥たまらなくて」
「断れない状況、よくわかる。だけどこのままじゃ、体が持たない。それに心も。そんな苦しんでたら」
「ありがとう」
また涙がこぼれた。
私を理解してくれて凄く嬉しかったから。
家康は翡翠色の瞳を少し細めて微笑んだ。
「このまま少し寝れば?寝不足なんでしょ」
「‥‥ねえ、どうして何でもわかるの」
「顔見ればわかる」
「凄い、お医者さんみたい」
穏やかな陽光とそよ風。
心が軽くなりとても心地よいお昼寝に私は落ちていった。
目が覚めると家康は文机に向かって何か書いていた。
横たわったまましばらく見つめる。
鼻が高くて綺麗な横顔、まつ毛も長くて。