第1章 *File.1*
「……」
何を考えている?
此処数日、雪乃の様子がまた変わった気がする。
いい意味ではなくて、悪い意味で。
何かが不自然だ。
「雪乃」
「ん?」
ベランダで、洗濯物を取り込む彼女が振り返る。
それはまるで、今までの自分を装うみたいに。
何か、覚悟を決めたみたいに。
自分は何時殺されてもいい。
彼女の心の真ん中に、その覚悟があるのは変わらない。
だったら……。
「此処から出て行こう、って考えてないか?」
「何で?」
手にしたままの乾いたタオルがゆっくりときつく握り締められるのを、見てしまった。
「それは出来ないよ」
「まだ何も答えてない」
「此処にキミがいることを、オレは迷惑だなんて一切思ってない。もし、雪乃がいなくなったら、オレは……」
「……」
「この世界中の隅から隅まで探し回って、必ずキミを見つけ出すよ」
これはオレの本音。
「それが警察官としての仕事だとしても、そこまでしてもらう義理も資格もない」
寧ろ、もう放っておいてくれ。と、言わんばかりに顔を背ける。
「それは……キミのホントの気持ちなのか?」
「他に何があるって言うの?」
吐き捨てるような、哀しいセリフ。
少しは近付いたと思ったのに、自覚した途端に離れて行こうとする。
それに、此処から出て行くと言う問いかけの否定をしない。
「だったら、オレの目を見てちゃんと答えて」
「貴方に……」
「……」
「私の何が分かるって言うのっ!!」
痛いほどの、心からの叫び。
やっと、溜め込んだ感情を解放してくれた。
「分からない。だから、キミのことを聞かせて欲しいと思ってる」
「……離して」
「イヤだよ」
背後から、その小さな背中を抱き締める。
「……私なんかに優しくしないで」
「なんかじゃない。雪乃はもうこの世界の住人だ」
今更、元の世界に戻してなんかやらない。
雪乃を此処へ連れて来た主がそのつもりなら、どんな手を使ってでも、何が何でも引き止めてみせるよ、オレは。
身体を動かして逃げようとするから、腹部に回した腕に力を込める。
今この力を緩めたら、きっと外へ出る。
そしてそのまま、帰っては来ない。
もう二度と、この家には。
最悪、自ら死を選ぶ。
その覚悟で。