第19章 好きって言って/伊武深司
「杏ちゃーん?杏ちゃんそこにいるー?」
しばらくして女子更衣室の中からの声が聞こえた。
「杏ちゃん?」
女子更衣室のドアが少し空くと、まだ完全に水着を着れていないが顔を出して俺と目が合った。
「きゃっ!!伊武先輩…、なんで…」
どうやら、首の後ろをリボン結びするタイプの水着を後ろで上手く結べないでいるようだった。
首元から紐が前の方にだらーんと垂れていて、胸元がめくれないように手で抑えていた。
「それ、結べないの?」
「えっと…は、はい…」
「今誰もいないから、ちょっとこっち来て。」
俺は周りに人がいないのを確認して、を男子更衣室へと誘導した。
「あ…あの…伊武先輩…?」
更衣室には幸い鍵が着いていたのでとりあえず閉めると、俺はへと向き直った。
「後ろ向いて。結ぶから。」
「え!?あの…でも…」
「いいから早く。すぐ終わるから。」
俺がそう言うと、は静かに後ろに振り返った。
すぐ終わる、なんて言ったものの、いざリボンを結ぼうとすると俺の手はかなり震えていて、ださいから絶対バレるなよ、なんて思いながら細い首筋に蝶を舞わせた。
「終わった。」
「あの…ありがとうございます…。」
は顔を赤くしてしおらしくそう言った。
「あー、ちょっと。この雰囲気やばいかも。」
「え…?伊武せんぱ…?」
俺はの頭から髪の毛先までをスーっと撫でると、白い首筋に軽く唇を這わせた。
「ひゃぁっ!?伊武先輩…何して…」
「その水着…可愛い。他の奴らに見られたくないなぁ。」
そう言いながらも俺はいつもより露出している脇腹や太ももを行ったりきたりと撫でて、首筋に顔を埋めた。
「あの…伊武先輩…その前にハッキリさせたいことが…」
「なに?」
「私の事…どう思ってますか…?」
「俺は、好きな人出来たことないから分かんないけど、多分この気持ちがそうだとしたら、好きだ。」
俺がそう言うと、はへにゃっと笑って答えた。
「私も好きです、深司先輩…?って呼んでもいいですか…?」
「どうだろ。付き合うなら、先輩いらないけど。」
「そ、それは慣れてきたら…て言うか、付き合うって…?」
は戸惑いながらそう言った。